在宅医療における薬剤師の役割とは?在宅開始の流れや必要なスキルも解説

在宅医療における薬剤師の役割とは?在宅開始の流れや必要なスキルも解説

在宅医療の現場で薬剤師にできることってなんだろう――。少子高齢化に伴い在宅医療のニーズが高まっています。医師でも看護師でもなく、薬剤師が在宅医療にかかわる意義とは何なのか。この記事では、薬剤師として実際に在宅訪問経験のある筆者が、薬剤師が在宅医療の現場でできること、期待されている役割や、今後必要となってくるスキルなどを紹介していきます。

在宅医療に薬剤師は必要?超高齢化にともない高まるニーズ


そもそも在宅医療の現場で、薬剤師は必要とされているのでしょうか。在宅医療を取りまく現状と、その中で薬剤師ができることについて考えていきます。

【2025年問題】超高齢化の時代に必要な「地域包括ケアシステムの構築」

2025年。団塊の世代が後期高齢者となるこの年、75歳以上の人口割合は18.1%に達すると推計されています。

(図引用元:中央社会保険医療協議会 総会(第343回)資料(総-3))

要介護者が500万人を超える2025年に向けて、社会保障制度の抜本的に改革は避けられません。その改革のひとつとして考えられているのが「地域包括ケアシステムの構築」です。

地域包括ケアシステムは「各地域の医療・介護職が連携して、要介護者等をサポートしよう」というもの。要介護状態になっても尊厳を保ち、住み慣れた場所で生活できることを目標としています。

薬局の薬剤師も地域医療の担い手として、地域包括ケアシステムの一翼を担うことが求められているのです。

▲各地域の医療機関・介護施設・地域包括支援センターなどが連携してケアを行う
(図引用元:平成30年10月18日 第7回 医薬品医療機器制度部会 資料2)


▲地域包括ケア実現のため、薬局も医療機関として一翼を担うことが期待されている
(図引用元:平成25年4月1日発行 日本薬剤師会「薬剤師の将来ビジョン」)

これまでも薬剤師による在宅訪問は年々増加傾向にありました。在宅業務をあらわす「在宅患者訪問薬剤管理指導料」「居宅療養管理指導費等」の保険算定回数は、平成19年から平成28年までの10年間で4倍以上に増えています。

(図引用元:平成30年3月27日 規制改革推進会議 公開ディスカッション 資料6)

今後もますます在宅医療に携わる機会は増えていくのではないでしょうか。

では地域の多職種がチームとなっておこなう在宅医療において、薬剤師はどのような役割を果たしていけばいいのか。
まずは、これまでの実績を紹介します。

薬剤師の介入で服薬状況や有害事象の改善が期待される

中央社会保険医療協議会 総会(第312回)の資料によると、在宅医療において薬剤師が副作用や有害事象を発見した割合は14.4%でした。そのうちなんと88.1%は、薬剤師が介入したことによって有害事象の症状改善が認められています。

服薬状況についても、薬剤師の指導により「指示通りに薬を飲めている患者」の割合が60.3%から83.8%に上昇していますね。

(図引用元:中央社会保険医療協議会 総会(第312回)資料(総-2))

別の研究でも、薬の保管状況や処方内容への理解に課題のある患者に対し、薬剤師が訪問し介入した結果、状況が改善されたことが報告されています。

(図引用元:中央社会保険医療協議会 総会(第205回)資料(総-3))

平成19年に行われた調査では、年間推計値として、飲み残しの潜在的な薬剤費475億円に対し、薬剤師の訪問指導等により改善された金額は424億円との報告もありました。
(平成19年度老人保健事業推進費等補助金「後期高齢者の服薬における問題と薬剤師の在宅患者訪問薬剤管理指導ならびに居宅療養管理指導の効果に関する調査研究」報告書」より)

つまり薬剤師が残薬整理を行うことで、400億円もの無駄が削減でき、医療経済にも大きなメリットがあることが示されています。在宅医療の現場に薬剤師がかかわるメリットはこれだけにとどまりません。在宅医療における薬剤師の役割についてさらに詳しくみていきましょう。

在宅医療における薬剤師の3つの役割【医薬品の供給・指導・連携】

在宅医療において薬剤師がはたすべき役割としては以下の3つが挙げられます。

・医薬品・医療材料の供給
・薬学的指導による薬物療法の最適化
・他職種との連携によるシームレスな医療の提供

それぞれについてくわしく見ていきましょう。

1. 医薬品・医療材料の供給

必要な医薬品を提供することは、薬剤師として最低限の役割ですよね。医薬品のみでなく、注射針など医療・衛生材料の供給への対応も必要となってきます。

2.薬学的指導による薬物療法の最適化

薬剤師がもっとも専門性を発揮できる、メインの業務となるのが薬学的指導です。
ここでは5つにわけて紹介していきます。
1.服薬状況の改善
2.薬物治療の効果判定
3.副作用の発現や重症化の予防
4.残薬管理による医療経済への貢献
5.処方変更の提案による薬物治療の最適化

それぞれの業務は以下のようなものです。

1.服薬状況の改善

服薬指導によって患者の服薬状況を改善します。飲み忘れの多い患者には、一包化を提案したり、お薬カレンダーを勧めたり。在宅医療では薬の保管場所や、服薬する様子を直接確認できるため、薬局での指導に比べより具体的な提案を行うことができます。

2.薬物治療の効果判定

服用した薬が予想通り効いているかを観察・聴取します。実際に生活している様子を見て、薬の服用が患者のQOLやADLにどのような影響を与えているか確認できるのは、在宅訪問の大きなメリットではないでしょうか。

3.副作用の発現や重篤化の予防

副作用を早期に発見し重篤化を防ぐために、薬剤師自らが患者のバイタルサイン(体温・脈拍・血圧など)をチェックし、フィジカルアセスメントを実施するべきであるとの考えが広まってきています。日本薬剤師会も「体調チェック・フローチャート」の作成により、これらの業務を後押ししていますね。

(図引用元:平成25年4月1日発行 日本薬剤師会「薬剤師の将来ビジョン」)

4.残薬管理による医療経済への貢献

薬剤師が残薬を整理し処方日数の調整を提案することによって、医療費の削減が期待できます。残薬の状況によって患者の服薬状況も把握できるため、アドヒアランス向上のためのアプローチを考えるヒントにもなります。

5.処方変更の提案による薬物治療の最適化

食事の状況、睡眠の状況、家族のサポートの有無や嚥下力の程度など、患者の状況によってベストな薬は異なりますよね。在宅医療では詳細に患者のライフスタイルを把握できるため、より患者にあった薬物療法を提案できます。

3.多職種との連携によるシームレスな医療の提供

在宅医療には、医師、訪問看護師、ケアマネージャー、介護ヘルパーなどさまざまな職種が関与します。チームとして密に連携し、コミュニケーションをとることで質の高い医療の提供が期待されています。

在宅医療における薬剤師の役割を以下の3つにわけて紹介してきました。

・医薬品・医療材料の供給
・薬学的指導による薬物療法の最適化
・他職種との連携によるシームレスな医療の提供

つづいて、実際に在宅業務をはじめるためにはどうすればいいのか、在宅訪問を開始する流れについて見ていきましょう。

【在宅を始めるには?】在宅医療に薬剤師が関わる流れ4パターン

薬剤師が在宅医療にかかわるパターンとしては、以下の4つが考えられます。

(図引用元:平成30年3月27日 規制改革推進会議 公開ディスカッション 資料6)

1.医師の指示

薬剤師が保険業務として在宅訪問をする場合は、医師の指示が必須です。医師から依頼され、患者宅を訪問するのがもっとも一般的な流れですね。

2.薬剤師からの提案

薬局で対応していたが、服薬状況が悪かったり病状が悪化して来局が難しくなったりした場合、患者の同意を得て医師に在宅訪問を提案するケースもあります。

3.患者や他職種からの要求

自分では薬の管理が難しいと患者や患者の家族から在宅訪問を依頼されたり、すでに患者宅を訪問している介護ヘルパーや訪問看護師からお願いされたりする場合も。このパターンでも医師からの指示は必ず必要となります。

4.退院時カンファレンスによる決定

入院していた患者が退院する際に、地域の薬局がカンファレンスに参加し病院薬剤師から業務を引き継ぐパターンもでてきています。薬薬連携により在宅でもスムーズに医療を受けられるメリットがあります。

ここまで薬剤師による在宅訪問の現状について様々な角度から紹介してきました。最後に、在宅医療の課題と、これから薬剤師に求められるスキルについて考えてみます。

これからの在宅医療で薬剤師が役割を果たすために必要な3つのスキル

在宅医療で薬剤師が果たすべき役割は多岐に渡り、今後さらに専門的な介入が必要となるケースが増えていくことが予想されます。これから在宅医療にかかわっていく中で必要になるスキルにはどんなものがあるのでしょうか。

平成27年に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」を踏まえながら、今後必要となってくる以下の3つのスキルについて解説します。

・医療用麻薬や小児の抗がん剤など高度薬学的スキル
・他職種連携のためのコミュニケーション力やバイタルサイン測定スキル
・無菌調剤や医療材料の取り扱いスキル

(図引用元:平成28年2月4日 在宅医療推進会議 資料「日本薬剤師会の取り組みについて」)

1.医療用麻薬や小児の抗がん剤など高度薬学管理スキル

医学の発展に伴い薬物治療は複雑さを増しています。医療用麻薬や小児の抗がん剤など、高度な知識と経験が必要なケースが増えていくのではないでしょうか。平成30年(第7回)医薬品医療機器制度部会では、「高い専門性に基づき、より丁寧な薬学的管理や特殊な調剤に対応できる」専門薬局の必要性も議論されており、薬剤師も専門分野を持つことが不可欠となる時代が来るかもしれません。

2.多職種連携のためのコミュニケーション力やバイタルサイン測定スキル

在宅医療では多職種との連携が必須ですが、まだまだ「顔の見える存在」として薬剤師が認識されている地域は少ないですよね。積極的に多職種と関わっていくコミュニケーションスキルは今後必須となってきます。
くわえてバイタルサインのチェックやフィジカルアセスメントを行うスキルも必要ではないでしょうか。「単なる薬の配達屋さん」ではなく、薬物療法の効果をモニタリングし、副作用の軽減に貢献できることをアピールしていくのも重要な業務のひとつといえます。

3.無菌調剤や医療材料の取り扱いスキル

これまで薬局業務ではあまり扱うことのなかった注射剤や医療材料の知識も必要になってきます。無菌調剤の設備がある薬局も増えてきました。
また在宅患者の中には、ターミナルケアを受けていて夜間の急変が考えられるようなケースも多々あります。夜間や休日であっても医薬品を供給できるよう、24時間体制を整える必要も出てきますね。

まとめ

超高齢社会に対応するために「地域包括ケアの構築」が急務となっています。地域の一員として、薬局薬剤師に求められる役割もますます増えていくことが予想されます。
それは一方で、薬剤師の職能が広く認められ、専門性を発揮するためのチャンスとも考えられるのではないでしょうか。
薬局薬剤師が医師や看護師とともに、患者宅を訪問することが当たり前となる未来は、もうそこまで迫ってきているのかもしれません。

この記事の監修
” alt=”” width=”102″ height=”142″ class=”alignnone size-full wp-image-291″ />” alt=”” width=”860″ height=”484″ class=”alignnone size-full wp-image-1620″ />
西 智行
株式会社スマイリンク

薬科大学卒業後、大手製薬会社の医薬情報担当者(MR)として入社。3年間福島県の郡山を中心に営業活動を行い、薬局経営事業に着手。関東中心に4店舗のM&Aを経て、薬局経営コンサルや転職コンサルに従事している。

在宅薬剤師についてカテゴリの最新記事