在宅薬剤師の認知症との向き合い方

在宅薬剤師の認知症との向き合い方

日本は少子高齢社会であり、しばらく前からこの少子高齢社会が日本国内に多大な影響を及ぼすと懸念されています。特に日本の人口層で一番数が多い団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年問題もあり、在宅医療のニーズもどんどんと高まっています。その中でも認知症の患者さんも増えてくると予想されています。

現時点でも軽度のものを含めると800万人以上の認知症患者さんがおり、2025年には1200万人を超えると言われています。そうなると国民の10人に1人が認知症という状況になってしまいます。そこで、今回は認知症の病態や薬剤選択について解説していきます。

認知症とは


認知症と聞くともの忘れのイメージがある方も多いかと思います。しかし、脳の老化によって人の名前を思い出すのに時間がかかったり、もの覚えが悪くなったりすることは誰でもあることです。そのため、認知症=もの忘れというわけではありません。単なるもの忘れは脳の老化が原因であるため加齢に伴って起こる現象であり誰にでも起こり得ます。

それに対して認知症は脳の神経細胞が破壊されることが原因です。アルツハイマー病や脳血管疾患などが原因で脳が萎縮していくことでもの忘れなどの症状が現れます。単なるもの忘れと認知症はしっかりと分けて考えていく必要がありますが、その見極めは非常に難しいところです。認知症の症状に徐々に進行していくこと、脳の萎縮を元通りに戻すのは難しいことから完治は期待できません。

最近ではもの忘れ外来など認知症の症状に特化した外来を行なっている医療機関も増えてきています。そのため、家族や周りの方達が患者さんの違和感に少しでも気付いたら、早めに医療機関を受診した方が良いでしょう。

認知症の症状、病態、病因


認知症の症状は中核症状と周辺症状があります。中核症状とはもの忘れが多くなったり、人の名前を思い出せなくなったりしてしまうもの忘れ、判断力の低下や相手の話している言葉が理解できなくなるなど認知機能障害を指します。周辺症状とは、イライラや暴力行為、意欲低下、妄想など認知機能の低下によって起こってしまう行動を指します。

認知症の症状はもの忘れや理解力低下などの中核症状から始まることが多いです。その後、徐々に症状は進行していき暴力行為や夜間徘徊などの症状が現れます。暴力行為や夜間徘徊は、患者さん本人だけでなく周りの方に迷惑をかけてしまい警察のお世話になることもあります。また、そのような状態で車の運転などを行なえば、罪のない方の命を奪ってしまう可能性さえあるのです。

また、もの忘れがひどくなってくると家族の名前さえわからなくなることもあります。そんな自分に不甲斐なさを感じてうつ状態に陥ってしまうケースも少なくありません。認知症の症状は徐々に進行していくため、早めに治療を開始したり、日常生活から認知症予防を行なっていくことが重要です。

認知症と老化の大きな違いは自覚があるか、日常生活に支障をきたすかという点です。老化によるもの忘れや判断力の低下は本人が自覚しており、もの忘れのレベルも一部を忘れているだけでヒントがあれば思い出すことも多いです。それに対して認知症の場合には、本人に自覚はありません。また、もの忘れのレベルも体験したことをまるごと忘れてしまっており、ヒントがあっても思い出せません。

また、認知症の場合にはこれらの症状によって日常生活に支障をきたしているのもポイントの1つです。認知症とは病名ではなく、病気の症状を指す言葉であるため、原因はさまざまです。最も多いのがアルツハイマー病をきっかけに発症するアルツハイマー型認知症です。この疾患は大脳の海馬という記憶や認知機能を司る部分が萎縮することが原因です。この他にも脳の血管がつまることで認知機能が低下する血管性認知症、脳のレビー小体という部分が特殊に変化するレビー小体型認知症などがあります。

認知症の種類によって考えられる薬剤選択


アルツハイマー型認知症では抑肝散が用いられることが多いです。抑肝散は不安症、不眠症、小児の夜泣きに適応のある漢方製剤です。アルツハイマー型認知症の周辺症状である不安、攻撃性、夜間徘徊に抑肝散が有効であるという臨床報告があります。

また、八味地黄丸も認知症患者に有効であるという臨床報告がされています。日本漢方医学会EBM委員会のエビデンスレポートではアルツハイマー型認知症を含む認知症患者に八味地黄丸を投与したところ認知機能、日常生活動作、内頸動脈の血流の改善を確認したとのことです。

副作用も認められず、認知症の種類によらず有効性を確認できているので抑肝散だけでなく、八味地黄丸も選択肢も入れておきたいところです。

在宅で直面する認知症治療介入時の注意点


在宅患者は外来患者とは違う服薬指導が必要となります。在宅患者の場合にはコンプライアンスが問題になることが多いです。特に認知症患者の場合には自分が認知症であることを自覚していないので薬を飲むことを嫌がる傾向にあります。周辺症状である攻撃性の症状が出ている時には注意が必要です。

60~70代前半の比較的若い認知症患者の場合には、まだ体力があります。そのような症状が出ている時に投薬を行なうとトラブルに発展するケースもあり得るのです。投薬のタイミングや剤形選択が重要になってくるので、あまりにもコンプライアンスが悪い場合には剤形変更の提案を医師やケアマネジャーと相談すると良いでしょう。

各薬剤の特徴

認知症患者に使用される代表的な漢方は抑肝散です。しかし、在宅医療では抑肝散だけでなく、さまざまな漢方製剤が用いられます。認知症の周辺症状に対する臨床報告がある漢方薬は抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、釣藤散、黄連解毒湯、当帰芍薬散補中益気湯、酸棗仁湯があります。

補中益気湯はだるさや食欲低下などの症状に対して使用されます。補中益気湯によって食薬が増すことで、体力も回復していくという働きに期待がされています。酸棗仁湯は漢方薬の中では睡眠薬という位置づけになっています。認知症の不眠やせん妄に関する症例報告がされています。

せん妄時に使用される薬

認知症の周辺症状であるせん妄は認知症患者のQOLを大きく低下させるとともに介護をしている家族に大きな負担がかかってしまいます。そのため、認知症の進行を遅らせるような治療も重要ですが、せん妄の症状を抑えていくことも重要です。その中で認知症のせん妄症状に対して効果が期待される漢方薬は抑肝散と酸棗仁湯です。

漢方薬の場合は、患者さん個人の体質によって薬剤選択が変わってきます。漢方薬であれば副作用も少ないので、合っていないと医師が判断すれば他の薬剤への変更も比較的容易です。せん妄の症状を確認しながら薬剤を選択していくことが重要です。

まとめ


薬剤師の在宅医療への参加も増えてきていますが、まだまだ十分とはいえません。これからの超高齢化社会に向けて薬剤師の働きは国からも期待されています。在宅医療への参加、残薬の調整、ジェネリック医薬品への変更推進など一昔前では考えられないくらい薬剤師の仕事は増えてきています。その中でも在宅医療は2025年を迎えるにあたって大きな問題になっています。それまでに薬剤師としての在宅医療のスキルを上げていき、医師、ケアマネジャー、看護師など他の医療従事者と協力して2025年問題を乗り越えていきましょう。

この記事の監修
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西 智行
株式会社スマイリンク

薬科大学卒業後、大手製薬会社の医薬情報担当者(MR)として入社。3年間福島県の郡山を中心に営業活動を行い、薬局経営事業に着手。関東中心に4店舗のM&Aを経て、薬局経営コンサルや転職コンサルに従事している。

参考資料

漢方治療エビデンスレポート

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