超高齢化社会に突入し薬剤師の仕事や役割も変化しつつあります。その中でも在宅医療では薬剤師は薬物治療の専門家として積極的に取り組んでいかなければなりません。では具体的に在宅薬剤師はどのような働きをするべきなのでしょうか。
今回は在宅薬剤師の仕事内容のうち胃ろう管理について着目し、薬剤師として患者さんにできること、他の医療従事者から求められている役割について、実際に在宅医療を担当している薬剤師がまとめました。これから実践しようとしている方、現在取り組んでいる方は自身の手技に漏れがないか確認してみてはいかがでしょうか。
胃ろうとは
胃ろうの造設を意味するgastrostomyは、ギリシャ語のgaster(胃)とstomoun(開口部または口を提供する)からなる造語です。
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG=Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)により内視鏡(胃カメラ)を使って腹部に「小さな口」を造設し、造られたおなかの口を「胃ろう」、取り付けられた器具を「胃ろうカテーテル」と呼びます。
胃ろう(gastrocutaneous fistula)の歴史は古く、19世紀半ば頃より行われていたといわれています。その後、改良が重ねられ1890年代には現在の開腹的胃ろう造設術の原型である手技が広まった。20世紀後半、内視鏡の進歩によりそれまで開腹を必要とした数々の手術手技を内視鏡下で行うことが可能となり、現在胃ろう造設の第1選択として定着しました。
食事の経口摂取が困難な方、嚥下能力が低下し誤嚥による肺炎などを起こしやすい方を対象とした背術で、直接胃に栄養や薬を投与することができます。胃ろうは、欧米でも多く用いられている長期栄養管理方法で、経鼻チューブなどに比べ、本人の苦痛や介護者の負担が少なく、言語訓練や嚥下リハビリが行いやすいという利点があります。
胃ろう時の基本的な注入方法
胃ろうからは栄養剤と薬、どちらも投与することができます。薬を投与するときは主にあらかじめ粉砕された医薬品を投与する方法が用いられてきましたが、昨今はより利点の多い簡易懸濁法によって投与することも増えてきました。
簡易懸濁法の利点としては調剤時間が短縮できるため、患者さんの待つ時間が短縮できること、錠剤を粉砕しないのでお薬の薬効低下や配合変化などを減らすことができます。
方法としては、55度前後のぬるま湯を容器に用意しそこに1回分の薬を全て入れて割りばしなどでかき混ぜ、10分程静置し多いな塊がなく溶けきったことを確認し、カテーテルチップまたは懸濁ボトルで注入口から注入します。
注入し終わったら、容器に残ったお薬を確実に投与するため、もう一度溶かした容器に水を20ml以上入れて、もう一度投与してください。栄養剤や薬がチューブ内に残った状態で放置すると、チューブが詰まる原因になります。 初めてのときは慣れない作業ですので不安に思うかもしれませんが、何回か行っていくうちにコツも掴めるようになります。
嚥下能力の低下した患者さんが粉薬や粉砕した薬を飲むときには苦味が感じられることがあり抵抗感が生まれてしまうこともありますが、胃ろうを用いた簡易懸濁法による投薬によって患者さんにとってのアドヒアランスが向上していく姿を実感できることは薬剤師としてのモチベーションにも繋がります。
漢方の場合
漢方薬は大きく分けて生薬を煎じて服用する煎じ薬と、煎じたエキスを顆粒や錠剤に加工した製剤の2種類に分かれます。
煎じ薬の場合は煎じたエキスを30-40度程度に温めてそのまま胃ろうより投与できます。
煮出す必要がなく服用が簡便なため医療用でよく用いられるツムラやコタローなどの顆粒剤や錠剤は簡易懸濁法にて対応可能です。
徐放性製剤の場合
薬の性質上簡易懸濁法を用いることは推奨できません。
現在はジェネリック医薬品で規格違いのOD錠なども普及しているので、同種同効薬で普通錠、OD錠への変更を医師と検討します。
OD錠
口腔内で容易に溶けるよう設計された剤型なので簡易懸濁法にて対応可能です。
しかしながら一部のOD錠はお湯に溶かすことでたらこ状に固まるので常温の水で溶かす必要があるものもあるため適宜性状を確認しながらの作業が必要になります。
内用液の場合
液体の製剤はそのまま投与可能です。
等々他胃ろう時に用いられる剤型について
缶、パックタイプのものは注入容器を使用します。バッグタイプの場合は、注入容器を使用せずに直接栄養セットを接続して注入します。
経管栄養剤の選択
栄養剤の選択は薬剤師ひとりで行うことはほとんどなく、主に医師かチームで動いている場合はカンファレンス時に決定することが多いです。その場合、薬剤師は医師に対して各栄養剤の特徴など薬学的な側面からの情報提供できる力が求められますので、薬だけでなく栄養剤についても知識を蓄えておく必要があります。
腸管機能が良好の場合、液体半消化態経腸栄養剤を使用します。
(例:エンシュアリキッド、エンシュアH、ラコールなど)
腸管機能が不十分の場合はより栄養素が分解され吸収しやすい形になった栄養剤を使用します。
(例:エレンタール、エレンタールP、ツインラインなど)
また各種病態別栄養剤として肝疾患にアミノレバンなどを用いることもできます。
在宅で直面する経腸栄養剤の注意点
経腸栄養剤を使用する方の体調は当然日々変化しておりその都度対応していく必要があります。主に起こりやすいのは浸透圧や温度差による消化管症状です。栄養剤が濃い・冷たい・注入速度が速い場合に起こりやすいのが下痢です。対処としては、高張性から等張性栄養剤への変更、注入速度を100mL/時程度まで低下させる、栄養剤を人肌に温めるなどが挙げられます。
また、栄養剤の作り置き、接続チューブや容器などの洗浄・乾燥不備による細菌性の下痢の可能性もあるため栄養剤は一度開封したら使い切るか余剰分はつど廃棄して下さい。次に便秘については水分量の不足が原因のことがあります。主治医と相談し水分量を増やすことも検討して下さい。
胃食道逆流・嘔吐もよく見られる症状の一つです。咽頭部まで逆流すると誤嚥による肺炎や窒息の危険があります。原因としては胃の動きの低下、胃内圧の上昇などが挙げられ、対策としては栄養剤注入時は上半身を 30°以上斜めに上げ、注入速度は100mL/時程度に調節して下さい。注入前に胃の中の圧力を逃がす方法に関しては主治医や看護師に相談しましょう。
また、胃ろうチューブを交換後、栄養剤を注入したところ、患者が腹痛を訴え、血圧低下・顔面蒼白 の状態となり、チューブの逸脱による腹膜炎が疑われた事例の報告があり2014年にPMDAから医療安全情報が発行されています。造設早期、低栄養状態の患者は、瘻孔損傷が起こりやすいので注意が必要です。注入中は患者さんの顔色やろう孔周囲の皮膚の状態、胃ろうカテーテルの状態などを観察しましょう。
まとめ
薬局では見えなかった患者さんの服薬状況を目の当たりにできる在宅業務においては、より一層患者さんにとって過ごしやすい環境を整えるにはどうしたらいいのか一緒に寄り添って実践できる力が求められます。
そのためには薬の知識だけではなく実際に在宅において患者さんがどのように服用しているのか、胃ろうとはどういうものなのかを理解することはとても大切です。今回の内容をきっかけに在宅医療の楽しさ、やりがいを見つけるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

株式会社スマイリンク
参考文献
PDN RECTURES
胃瘻チューブ取扱い時のリスク
倉田なおみ,簡易懸濁法研究会.簡易懸濁法 Q&A
在宅栄養管理に必要な薬剤の知識
日本静脈経腸栄養学会雑誌3(03):775-780:2015
在宅医療にかかわる薬剤師の患者に対する直接接触行為に関する研究─法的妥当性の認識と抵抗感─菊地 真実、辻内 琢也
在宅における 胃ろう管理の手引き – 長崎県看護協会