在宅薬剤師の漢方との向き合い方

在宅薬剤師の漢方との向き合い方

普段良く目にする漢方は今や在宅の領域でも処方されるケースが増えています。処方Drの嗜好性に依存する部分もありますが、この漢方を実際の在宅の現場では薬剤師はどのように携われば良いのでしょうか?このページでは在宅で関わる漢方との付き合い方や、注意する点についてまとめていますので、もし今後在宅の場で漢方を扱う際にはぜひ参考にしていただければ幸いです。

では早速内容に移っていきましょう!

在宅で薬剤師が関わる漢方とは


在宅医療で使われる漢方には、葛根湯(かっこんとう)小青龍湯(しょうせいりゅうとう)大建中湯(だいけんちゅうとう)抑肝散(よくかんさん)五苓散(ごれいさん)などがあげられます。

在宅医療を受ける高齢者は、すでに降圧薬、循環器用薬、糖尿病薬、骨粗しょう症薬、パーキンソン病治療薬、催眠鎮静薬など、複数の薬物療法を受けているケースが多くあります。薬物相互作用を考慮すると、新たな疾患が発現した場合、なるべく受容体に作用しにくい漢方薬を追加するのが安全という認識が医師側にもあるようです。

ではこれらの漢方薬がどのような形で活用されるのか、さらに詳細を確認していきましょう。

どのような疾患、状況に対して使われるのか

葛根湯(かっこんとう)

葛根(かっこん)桂枝(けいし)麻黄(まおう)芍薬(しゃくやく)甘草(かんぞう)生姜(しょうきょう)大棗(たいそう)の7種類の生薬で構成された漢方薬です。

効能効果:頭痛・発熱・悪寒がして、自然発汗がなく、項・肩・背などがこるもの、あるいは下痢するもの。感冒、鼻かぜ、蓄膿症、扁桃腺炎、結膜炎、乳腺炎、湿疹、蕁麻疹、肩こり、神経痛、偏頭痛(小太郎漢方製薬株式会社 添付文書より)

風邪のファーストチョイスといわれている漢方薬です。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

半夏(はんげ)乾姜(かんきょう)甘草(かんぞう)桂皮(けいひ)五味子(ごみし)細辛(さいしん)芍薬(しゃくやく)麻黄(まおう)の8種類の生薬で構成された漢方薬です。

効能効果:下記疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙、気管支炎、気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒(株式会社ツムラ添付文書より) 咳と鼻炎に使われる漢方薬です。

大建中湯(だいけんちゅうとう)

山椒(さんしょう)乾姜(かんきょう)人参(にんじん)で構成された漢方薬です。

効能効果:腹壁胃腸弛緩し、腹中に冷感を覚え、嘔吐・腹部膨満感があり、腸の蠕動亢進とともに、腹痛の甚だしいもの。胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛(小太郎漢方株式会社添付文書より)高齢者に関して、脳卒中後遺症後の機能性便秘、腹部術後の腸間蠕動運動促進に処方されます。

抑肝散(よくかんさん)

蒼朮(そうじゅつ)茯苓(ぶくりょう)川芎(せんきゅう)釣藤鉤(ちょうとうこう)当帰(とうき)柴胡(さいこ)甘草(カンゾウ)で構成された漢方薬です。

効能効果:強弱な体質で神経が高ぶるものの次の症状:神経症、不眠症(株式会社ツムラ添付文書より)認知症に伴う幻覚、昼夜逆転、興奮、暴力などに使われています。

五苓散(ごれいさん)

沢瀉(たくしゃ)茯苓(ぶくりょう)蒼朮(そうじゅつ)桂皮(けいひ)猪苓(ちょれい)で構成された漢方薬です。

効能効果:体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が少ないもので、めまい、はきけ、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症:水様性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔い(株式会社ツムラ添付文書より)

在宅介護中の高齢者で車いすの場合、足の浮腫みが見られます。このようなケースに、五苓散が使われています。

漢方薬を扱う上での薬剤師の役割

漢方薬は安全といわれていますが、薬物代謝酵素に影響を与える生薬も研究により明らかになっています。徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部臨床薬剤学分野 川添和義氏の報告によると、CYP3A4タンパク量を著しく減少させる生薬として、枳実(きじつ)と陳皮(ちんぴ)が報告されています。

枳実を含む主な漢方薬として、大柴胡湯(だいさいことう)、麻子仁丸(ましにんがん)があります。また陳皮を含む主な漢方薬として平胃散(へいいさん)、六君子湯(りっくんしとう)があります。特に麻子仁丸は、高齢者の便秘に頻用されています。

CYP3A4は小腸上皮に存在する薬物代謝酵素です。グレープフルーツがこれに作用し、以下の医薬品の血中濃度を高めるリスクが報告されていますが、枳実、陳皮にも同様、血中濃度を高めるリスクがあるので、注意が必要です。

カルシウム拮抗薬:フェロジピン、ニフェジピン、ニソルジピン
高脂血症治療薬:アトルバスタチン、シンバスタチン
催眠鎮静薬:トリアゾラム
精神神経薬:カルバマゼピン

しかしこれらのリスクが発現するには、個人差があります。漢方薬の薬物動態を研究した岡 希太郎氏(東京薬科大学薬学部 教授)によると、小柴胡湯(しょうさいことう)を例に、薬物動態は吸収前代謝が重要であり、それは腸内菌による加水分解によって進行すると述べられています。また腸内菌代謝は個体差が大きく、ある生薬成分を還元的骨格変換できたのは、5名中3名というデータがあります。

つまりプロドラッグである漢方薬の薬効を出せるのは、5名中3名ということになります。これらのことを踏まえ、薬剤師は個々人に応じて、薬物動態、薬物代謝を考察し、上記の医薬品との相互作用を生化学的検査データから判断し、臨機応変に処方医に情報提供する役割があります。

在宅時にかかわる漢方薬の注意点

一番大切なことは、飲み残しがないかどうかです。飲み残しがあった場合、次の2点を考えてください。

剤形が飲みにくいのではないか。

エキス剤が飲みにくい場合は、オブラートを利用したり、水で溶かしたり、とろみをつけるなどの工夫が必要です。また、漢方薬は味が苦手の人もいるので、味の工夫もしてください。錠剤やカプセルが飲める場合は、薬価収載されている漢方薬に関して剤形変更の疑義も必要です。

食前・食間などの用法がわかりにくい。

食前・食間など用法で飲み忘れるケースが多々あります。このようなケースでは処方医と話し合い、患者が飲みやすいように用法を考慮する必要があります。

漢方薬に限らず、医薬品は受け取った後が薬物療法のスタートです。特に在宅では独居の場合、自分で管理せざるをえなくなります。そこで薬剤師がいかに飲み残しを減少できるか、そこが腕の見せ所になります。

在宅患者が安心安全に漢方薬を服用できるよう、薬学的観点を踏まえて、社会に貢献していただきたいと願っています。

この記事の監修
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西 智行
株式会社スマイリンク

薬科大学卒業後、大手製薬会社の医薬情報担当者(MR)として入社。3年間福島県の郡山を中心に営業活動を行い、薬局経営事業に着手。関東中心に4店舗のM&Aを経て、薬局経営コンサルや転職コンサルに従事している。

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