在宅薬剤師の睡眠障害との向き合い方

在宅薬剤師の睡眠障害との向き合い方

平成29年に厚生労働省により行われた「国民健康・栄養調査」の結果、日本人の5人に1人が「睡眠で休養があまり取れていない」、「まったくとれていない」と回答しています。平成21年の調査よりその数は増加しており、睡眠障害はまさに国民病といわれるまでになっています。睡眠には、心身の疲労を回復する働きがあります。

このため睡眠が量的に不足したり、質的に悪化したりすると健康上の問題や生活への支障が生じてきます。睡眠障害による健康への悪影響についてもよく知られており、生活習慣病などの要因の一つと考えられています。健康な睡眠を継続できるよう、睡眠障害について正しく学び、理解を深めていきましょう。睡眠障害について解説していきます。

睡眠障害とは


睡眠障害には、寝入ることのできない不眠症、日中に過剰な眠気が見られる過眠症、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠呼吸障害、足の異常な感覚であるレストレスレッグス症候群などの感覚・運動の障害、概日リズム障害、寝ぼけなどの睡眠時随伴症と多彩な病態が含まれます。睡眠障害が生活習慣病やうつ病のような心の病につながることや、日中の眠気による活動力の低下を引き起こすことも明らかになっています。

また寝酒によって睡眠時間を確保しているかたもいますが、アルコールには、一時的には寝付きが良くなり睡眠が取りやすくなったように感じる効果があります。しかし、実はそうした効果は一晩の前半だけにしか生じず、後半になると逆に眠りが浅くなって頻繁に目が覚めるなど睡眠の質が悪化します。また、アルコール依存症に陥ってしまう危険性もあり、寝酒については睡眠障害の際には推奨されていません。

厚生労働省は2014年に「健康づくりのための睡眠指針 2014」を策定しその中で、~睡眠 12 箇条~として下記のように示しています。睡眠障害はまさに国をあげての問題となっているのです。

~睡眠12箇条~

1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
6. 良い睡眠のためには、健康づくりも重要です。
7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
10.眠くなってから寝床に入り、起きる時間は遅らせない。
11.いつもと違う睡眠には、要注意。
12.眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

睡眠に支障が出る状態が長く続くと心身が消耗し、仕事や生活にも、全身の健康状態や精神状態にも影響が及び、日常生活に支障がでてきます。自分で可能な限りの生活環境を整えたうえでもなお、睡眠障害が続き根本的な治療を希望するようであれば、速やかに専門の医療機関での相談を検討してみましょう。

睡眠障害の症状、病態、病因


睡眠障害のなかでも最も多い患者数の不眠症について解説していきます。不眠症は、睡眠障害国際分類第2版(The International Classification of Sleep Disorders, Second Edition:ICSD-Ⅱ)において、次のように定義されています。

「睡眠の開始と持続、一定した睡眠時間帯、あるいは眠りの質に繰り返し障害が認められ、眠る時間や機会が適当であるにもかかわらずこうした障害が繰り返し発生して、その結果何らかの昼間の弊害がもたらされる状態。」

ICSD-Ⅱでは、睡眠障害が8つのカテゴリーに分けられており、そのうちの1つに不眠症があります。不眠症は、さらに精神生理性不眠、不適切な睡眠衛生による不眠などの11の下位分類に分けられており、その様々なタイプの不眠症に共通する一般的基準として、次の基準が示されています。

・入眠困難(夜間なかなか寝つけず、寝つくのに普段より2時間以上かかる)、
・睡眠維持困難(中途覚醒ともいわれる;いったん寝ついても夜中に目が覚めやすく、2回以上目が覚める)、
・早朝覚醒(朝普段よりも2時間以上早く目が覚めてしまう)、慢性的に回復感のない、質のよくない睡眠が続く(熟眠障害)と訴える。
子どもの場合は大抵保護者から報告され、就寝時のぐずりや1人で眠れないといった睡眠障害がある。

眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、上述の睡眠障害が生じる。夜間睡眠の障害に関連して、以下のような日中障害を少なくとも1つ報告する。

ⅰ)疲労または倦怠感
ⅱ)注意力、集中力、記憶力の低下
ⅲ)社会生活上あるいは職業生活上の支障、または学業低下
ⅳ)気分がすぐれなかったり、いらいらする(気分障害または焦燥感)
ⅴ)日中の眠気
ⅵ)やる気、気力、自発性の減退
ⅶ)職場で、または運転中に、過失や事故を起こしやすい
ⅷ)睡眠の損失に相応した緊張、頭痛、または胃腸症状が認められる
ⅸ)睡眠について心配したり悩んだりする

このような診断基準によりいえることは、たんに眠れないことでは睡眠障害とはならないということです。睡眠障害とは眠れないことによって日中の活動に障害が起こる状態であると考えられています。

また睡眠障害はさまざまな疾患の随伴症状としてあらわれることが多いため、治療に際しては基礎疾患の治療を優先して行います。不眠症を引き起こす主な疾患としては下記のものがあげられます。

• 加齢
• うつ病、不安障害、統合失調症などの精神疾患
• ステロイド、降圧薬、インターフェロンなどの薬剤
• 睡眠時無呼吸症候群
• むずむず脚症候群
• 周期性四肢運動障害
• レム睡眠行動障害
• 頻尿(前立腺肥大など)
• かゆみ(アトピー性皮膚炎など)
• 痛み(がん性疼痛、整形外科的疼痛など)

基礎疾患としてとして上記のような疾患をお持ちの場合は、疾患の治療を優先することで睡眠障害の改善につなげていただくことをおすすめします。

睡眠障害の種類によって考えられる薬剤選択


睡眠障害の治療は薬物療法と非薬物療法の大きく2つにわけることができます。薬物療法で使用される薬剤として次の5つのグループがあります。代表的な薬剤を記載しています。

1984年にデパスが販売されて以来、数多くの種類が販売されています。作用時間によって使いわけが行われます。長期使用で耐性形成が起こりやすく筋弛緩作用や常用量での耐性形成が問題になることが多い薬剤です。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
・超短時間型(効果のピークは1時間未満、作用時間が2~4時間)
・マイスリー、アモバン、ルネスタ
これらは超短時間型に分類されます。ベンゾジアゼピン系の薬剤の特徴である筋弛緩作用や抗不安効果に作用するω2受容体への作用を弱めているため、睡眠薬としての効果に特化しています。ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比較して耐性形成が起こりにくいとされています。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
・超短時間型(効果のピークは1時間未満、作用時間が2~4時間)
・マイスリー、アモバン、ルネスタ
これらは超短時間型に分類されます。ベンゾジアゼピン系の薬剤の特徴である筋弛緩作用や抗不安効果に作用するω2受容体への作用を弱めているため、睡眠薬としての効果に特化しています。ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比較して耐性形成が起こりにくいとされています。
メラトニン受容体作動薬
・ロゼレム
「メラトニン」は睡眠と覚醒のリズムを調節する脳内物質です。ロゼレムはメラトニンと同様の働きをすることでメラトニン受容体に作用し、自然な睡眠をうながす薬剤です。「メラトニン」は米国ではサプリメントとして市販されているほど安全性の高い化合物です。一部の抗うつ薬と一緒に服用することができないため使用する際には注意が必要な薬剤となります。
オレキシン受容体拮抗薬
・ベルソムラ
最も新しいお薬であるベルソムラは脳内で覚醒状態を維持する「オレキシン」という物質の働きを抑えることで自然な睡眠をうながす薬剤です。依存形成がなく使いやすい薬剤と言われています。一緒に服用することのできない薬剤が多くあるため、処方の際には注意する必要があります。
バルビツール酸系薬
・ラボナ、イソミタール
古典的な薬物であり、依存形成や呼吸抑制などもあり、安全性が低いとされているため近年では使用されることが少ない薬剤です。

バルビツール酸系薬剤は安全性が低いため現在ではあまり使用されることはありません。メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は安全性が高く自然な睡眠が得られるものの効果が緩徐であるため治療の進んだ睡眠障害で用いられることは少なくなっています。現在の治療の中心となる薬剤としてはベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬となります。どちらの薬剤も耐性形成を招くことがしられているため耐性形成をさけるためにも薬物療法と非薬物療法を組み合わせる治療が推奨されています。

在宅で直面する睡眠障害治療介入時の注意点


睡眠障害の薬物治療では睡眠障害のタイプによって薬剤の使い分けがされています。ただ、睡眠薬はその特性が様々なので、症状や体質に合わせて上手に使い分けていくことが重要な薬剤です。

例えば高齢者ではふらつき、転倒を避ける必要があるため、筋弛緩作用が少ない薬剤や、作用時間の短い薬剤を使っていくことになります。うつ病などの精神疾患などが背景にある場合は睡眠薬の効果が乏しいこともあり、治療にあたっては心療内科や精神科が専門になります。

睡眠障害におけるおおまかな薬剤の使い方は次の通りです。作用時間の長短によって使用される薬剤を選択します。

入眠障害
・超短時間型、短時間型
・中途覚醒、早朝覚醒
・中間型、長時間型

短期間での使用の場合は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬による効果の違いはないとされています。しかし長期間での使用の場合において耐性不形成(耐性を生じない)となるのは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のみであることがわかっています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬での2種類以上組み合わせて使用することが有効であるというデータや、用量を増やすことでより効果が高くなるというデータはありません。

副作用リスクや耐性形成を避けるためにも漫然と長期間にわたって多種類の薬剤を使用することは避ける必要があります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の依存性については独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)より医療従事者にむけて医薬品の適正使用に関して通知されています。

2013年に策定された「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインー出口を見据えた不眠医療マニュアルー」においても、薬物療法と認知行動療法や睡眠衛生指導などの非薬物療法を合わせて治療し、薬物療法が有効であれば休薬トライアルをすることが推奨されています。漫然と長期間使用しないようにすることがポイントとなりますが、自己判断での調整や中止により睡眠障害の悪化を招くことも多いため、専門医の指導のもとで使用するようにしてください。

在宅の場合、睡眠薬を病院や診療所など、複数の医療機関から睡眠薬を取得しているケースが多くあります。医薬品の適正使用をすすめるため、現在の正確な服用量を把握したうえで、乱用によるベンゾジアゼピン系睡眠薬の耐性形成や、過量服用や多種類の薬剤を服用することによる睡眠への有効性はないことを説明する必要があります。

また、患者自身にとって睡眠がとれないことを問題としている場合では、睡眠時間が問題ではなく、日中の活動量が低下しない程度に睡眠がとれることの必要性を患者に説明し理解してもらうことが必要だと考えられます。

まとめ


睡眠障害のポイントについて解説しました。睡眠障害は生活の活力を奪うばかりではなく、生活習慣病や精神疾患などの健康へ問題を引き起こすことが知られています。日常生活に問題が起こらない程度の睡眠がとれていれば、睡眠障害とはいえないため眠れないことが問題ではないことを説明していく必要があります。

眠れないと思った場合、まず睡眠12箇条を活用してみて睡眠習慣をみなおしてみましょう。睡眠習慣を改善してもなお睡眠の改善がみられないときは、アルコールの摂取などで寝付くのではなく、専門医に相談されることをお勧めします。薬物療法においても専門医の指導のもとで使用するのであれば、耐性形成などの過度な心配は不要であることを説明し、自身での調整は睡眠障害をさらに悪化させる可能性を伝えてください。

この記事の監修
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西 智行
株式会社スマイリンク

薬科大学卒業後、大手製薬会社の医薬情報担当者(MR)として入社。3年間福島県の郡山を中心に営業活動を行い、薬局経営事業に着手。関東中心に4店舗のM&Aを経て、薬局経営コンサルや転職コンサルに従事している。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬 超短時間型 (効果のピークは1時間未満、作用時間が2~4時間)
ハルシオン 短時間型 (効果のピークは1~3時間、作用時間が6~10時間)
デパス、レンドルミン 中間型 (効果のピークは1~3時間、作用時間が20~24時間)
サイレース、ユーロジン、ベンザリン ベンザリン長時間型 (効果のピークは3~5時間、作用時間が24時間以上)